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にいがた版 2021年1月1週号

獣害に打ち勝つ

新潟

イノシシ、クマ、サル……。これら野生獣は、今や住宅地にまで出没するようになりました。人々の生活を脅かすだけでなく、水稲、果樹、野菜などの農作物を荒らします。2019年産水稲共済(一筆方式)における獣害の共済金支払額は、全体の約50%に当たる4千万円に上りました。現場で実践されている効果的なイノシシとクマの対策を「長岡技術科学大学」の山本麻希准教授に、サルの対策を阿賀町「新潟鳥獣警備」の波多野健治代表に伺いました。

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イノシシの被害状況を説明する山本准教授

「追い払いホルダーを手に持つときは必ず専用ホルダーを使用してください」と波多野代表

〈イノシシ――3段張りの電気柵が効果的/設置と並行して捕獲も〉
ここ5年で、本県におけるイノシシの分布が急激に拡大しています。以前は、上越市や糸魚川市、柏崎市近辺でしか目撃されていませんでしたが、今では県全域で目撃されるようになりました。市街地にも頻繁に出没するようになっています。
分布の拡大に伴って、イノシシによる本県の農作物の被害額が増加しています。そのほとんどが水稲の被害です。大切に育てた農作物をイノシシから守るためには、3段張り(地面から15㌢、15㌢、20㌢間隔)の電気柵が効果的です。国などの補助を活用し、設置していきましょう。
電気柵を設置しても、きちんと管理しなければ効果を発揮しません。本県では電気柵の設置距離が増えているにもかかわらず、被害額が増加しています。漏電を防止するため、電気柵の周辺は2週間に1回草刈りをしてください。電気柵をたくさん設置しすぎて、管理が行き届いていない地域が見受けられます。地域で管理できない分の電気柵を設置するのは避けましょう。
イノシシ対策の難しいところは、電気柵を張ると分布が拡大してしまうところです。他の地域に移動して、農作物に次々と被害を加えていきます。そのため、電気柵を張るだけでは、イノシシ被害の根本的な解決にはなりません。電気柵の設置と同時に捕獲を進めていく必要があります。イノシシは繁殖力の強い動物で、7割以上の個体を捕獲しないと数が減っていきません。行政を中心とした強力な捕獲体制で、個体数を管理していくことが重要です。

▼出穂時期に要注意

多くのイノシシは、行動範囲が狭いです。里へ下りて農作物に危害を加えるイノシシは、農地からあまり遠くない場所に潜んでいます。このような有害個体は、8月の水稲の出穂時期に一番よく現れます。有害個体を罠で捕獲していくことを最優先し、被害の拡大を防ぎましょう。
イノシシは人を襲うこともあります。現在は地域のベテラン猟師のおかげで、まだ個体数が抑えられている状況です。今後、若手猟師の育成が急務となっています。


〈サル――管理守り追い払いを/地域一体の意識が必要〉
「管理」「守り」「追い払い」。この三つがサルの被害対策で重要です。
まずは、徹底した「管理」。サルは、柿、ダイコン、ニンジンなど、人間がおいしいと思うものは基本的に何でも食べます。よく、木になった柿や収穫しない野菜が放置されているのを見ます。サルはそれらを見て、山から里へ下れば、おいしい農作物が食べられると覚えてしまいます。収穫放棄された作物や残渣(ざんさ)は放置せず、全て収穫することで、サルの目に触れない管理を行いましょう。
次に、電気柵による「守り」です。電気柵は、段数と電圧が重要です。段数は、サルが跳び越えたり、くぐったりできないよう7~8段張りにしましょう。電圧は、雑草が電気柵に触れて多少漏電してもカバーできるよう、4千~5千ボルトにするのが理想です。
最後に「追い払い」。山奥までしつこく追い払うことで、サルは「この集落に入ることは難しい」と考え、集落に近づかなくなります。追い払いの際には、追い払い用花火「動物駆逐用煙火(3連発式:1本275円)」を使うと効果的です。銃声のような爆音が鳴り響きます。基本的には、煙火を地面に3分の1以上埋めて使用します。手に持って使用する際は、決して直接手に持たず、煙火の販売業者が提供する専用の保護ホルダーを使用してください。

▼通信端末で行動確認

阿賀町では電気柵を設置する人が増えており、町全体の被害対策意識が高まっています。役場では、GPS(衛星利用測位システム)を取り付けた野生動物の位置情報を確認できるシステム「ANIMAL MAP」を導入しました。これにより、町民は、パソコンやスマートフォンからサルの居場所や行動範囲を確認でき、追い払い活動に効果を発揮しています。
獣害対策は、地域一体となることが重要です。「住民みんなで地域を守る」という意識を持ち、一人一人が正しい対策方法を習得しましょう。


〈クマ――4段張り電気柵設置を/外柵で穴掘り被害防止〉
クマが最近になって、市街地で度々目撃されるようになったのは、いくつか要因があります。一つはブナの実の大凶作です。クマはブナの実を最も好みます。ブナの実は10年に1度ほど大豊作となり、それ以外の年は、小凶作と大凶作を繰り返します。昨年と一昨年は、ブナの実が大凶作だったため、餌を求めて人里に近づいています。人を見かけると自分の餌を奪っていると認識され、人身被害につながってしまいます。
クマはブナなどの木の実の他、甘い農畜産物が大好きです。トウモロコシ類、養蜂(ハチミツ)、果物が特に好きです。山際でこれらを栽培する際は、地面から15㌢間隔4段張りの電気柵を設置しましょう。クマは柵などを叩(たた)いたり、壊したりするため、支柱は壊されにくいグラスファイバー製が良いです。
餌を食べたいあまり、しつこく電気柵を破ってこようとします。何とか餌にたどり着こうと電気柵の下に穴を掘ることもあります。これを防止するため、本柵に加えてトリップライン(掘り防止の外柵)を設置し、電気柵を破られないようにしましょう。

▼人里に近づかせない

クマは長期記憶を持っています。何年か前に食べたおいしい餌の場所を絶対に忘れません。どの集落のどの木に柿がなっているかを覚えています。ブナの実が凶作のたびに、記憶している人里の餌場へ下りてくるようになりました。今では凶作でない年にも出没するようになり、中には山に帰らず、人里付近にずっと残るクマもいます。
クマの餌となる場所に電気柵を設置する、クマを誘引する放置果樹などを伐採・撤去するなどの環境づくりが重要です。

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